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インタビューinterview

『陸の孤島から世界の観光地へ』
人吉球磨で将来を見据えた観光戦略を実践

一般社団法人 人吉温泉観光協会 事務局長

中神 寿一

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在籍中の人吉温泉観光協会はかつての観光ブームを受け、22年7月に観光協会を法人化。中神様はそうした激動の時期を経て現在に至っておられます。2020年に向けてインバウンドのニーズが高まりつつある中、変化を乗り越えられたその視点から、具体的・建設的なお話をお伺いすることができました。

株式会社アイキャッチ(以下ア)
中神様(以下中)

観光協会の法人化で自治体同士の連携を強化

人吉の観光の現状をお聞かせ下さい。
私が観光協会に入って観光のお仕事に携わったのは平成21年の五月からなんでそんなに長くないんですよ。今28年ですよね。まだ8年なんで。その8年間の話になるんですが。ちょうど私が入った年は、SL人吉が走り始めた年なんですよ。平成21年4月25日。で、私は5月に観光協会に入りました。その前年の20年6月9日に青井阿蘇神社が国宝になったんですよね。2年続けて観光の起爆剤となる出来事があって、お祝いムードというか、ドカーンと観光の入れ込みが増えたんですよ。それは統計上にも出ていて、それまでは年間80万人台だったのが、一気に100万人台まで増加して。近年は130万人前後で推移していて昨年27年の統計では138万人でした。やはりその2つの出来事が大きかったですね。それまでの人吉の観光って、城跡があって、その城下町、球磨川、小京都の雰囲気、文化財がたくさんあって・・・いわゆる典型的な観光地だったんですよ。それが大きく変わるきっかけになりました。それと同時期、22年7月に観光協会を法人化したんです。そのときに観光協会の中心メンバーが私たちと同年代の世代に入れ替わったんです。女性も入ったりして。従来の観光PRや誘致事業に色んな新しい考え方、PRのやり方を加えていったんです。最近ではアニメツーリズムとか。そういうのも若い人たちからのアイデアですね。併せて、法人として事業収益を上げなくてはいけないという認識も持ち、組織としても大きく意識が変わった年でしたね。人吉球磨という地域はひとつの生活文化圏として10の市町村があるんです。でも今まではそれぞれの市町村がバラバラに同じことやっていて。観光客からすれば、人吉っていうのは人吉市だけのことじゃなくて人吉球磨全体として見られているんです。だから、行政では難しい横との連携というところは自分たちで取り組んで全部網羅していこうと。客層も、昔の高齢者中心から、どんどん若返ってるんですよ、実感として。やっぱりそれは新しい考えや取り組みの効果が出てきているのかなって思っています。
中神さんが観光協会に入ってから右肩上がりが続いているってことですね?
今のところはですね(笑)人吉球磨ってけっこう広い地域で。一日でまわるのって難しいんですよね。日帰りで見るのはちょっと無理で。だから人吉も他の町や村も含めて全体でPRすることで、滞在時間や日数を延ばすことに成功してるんだと思います。人吉市に泊まってもらわなくても、五木村に泊まってもらえばいいわけで。
宿泊施設のキャパは足りてますか?
いまちょうどいいくらいかもですね。宿泊客が大幅に増えるときってなんらかのコンベンションが開催されるときなんですよね。去年大幅に増えた要因は、いろんな分野の九州大会が開催されたことなんですよね。九州大会までは出来るけど、現在のキャパだったら、全国規模のコンベンションは難しいですね。

人吉球磨の日本遺産を世界に発信したい

外国人旅行者についてはどう捉えられていますか?
インバウンドも増えてきています。ほぼ毎日外国人がいらっしゃいます。団体客よりも個人旅行客が多いですね。特に台湾、韓国、中国から多くいらしてますね。ヨーロッパ圏からはまだまだ少ないですね。インバウンドの客数は、毎年、前年比120パーセント成長しているんです。特に去年は150パーセントを超えました。まだまだPR、整備不足な部分はあるけれども、確実に増えてますね。人吉は、鹿児島、熊本、福岡の空港からちょうど、真ん中くらいの位置にあって、いま、日本への旅行をリピートされる外国人って実はもう大都市へは行ったことがある人ばっかりなんですね。福岡とか。これからは今まで目が向いていなかった観光未開拓地って言われるところに足が伸びてくると思うんです。人吉や天草みたいな。
どういったことを楽しみに来られるんですかね?
日本の文化というか、日本らしさとか日本の生活だと思いますね。木造の建物とか田園風景とか。そういった日本らしさって大都市には意外と残ってなくて。そういうのをこれからは求められるんじゃないかな。人吉球磨の41の文化財が日本遺産に認定されたじゃないですか?それって今までは国内向けにPRしてきてたんですが、大きな観光地のまねをするんじゃなくてじつは外国人にPRしていく方が将来的に効果的なんじゃないかなと思います。
観光協会として取り組んでいきたい未来はどんなことですか?
インバウンドに関して言えば、地理的に陸の孤島なんですよね。高速が開通する前は、雨が降ったら来れなくなってしまうような場所で。二次アクセスの改善がひとつ大きな課題ですね。地理的に鹿児島空港を使う場合が多いので、そこからのアクセス、入れ込みを行っていきたくて、運輸局とも話をしてきたんだけど、県を跨いでしまうのでなかなか難しくて。オリンピックに向けて、外国人への対応をさらに充実させなければならない。現状、アジアからの比率が7、8割を占めていて、欧米からはまだまだ少ない。でもおそらく、オリンピックを契機に、20~30年の間に欧米からの比率が飛躍的に増えると思うんです。だから、アジアからの韓国客はもちろんなんですけど、そっちを先取りしていかなくてはならないと思ってるんです。本物の日本、本物の生活文化を見せるということでは、人吉球磨は他の地域よりに勝っているのかなと。欧米からの観光客は滞在期間が長い。観光地を巡って、買い物をして食事してっていうせかせかした従来の観光じゃなくて、ただ散歩したり、自転車に乗ったり、そんな普通のことをしながら自然の生活をして、ゆっくりすることを楽しんでる。欧米の観光客が求めてるのは、観光旅行じゃなくてバカンスなのかもしれません。泊食分離と同じ様に、私たち日本人の考える旅行じゃなくて、欧米のニーズを的確にとらえてアプローチする必要があるんだと思います。欧米という広い地域じゃなくて、国や地域を絞ってもいいかなと思ってます。人吉は実はポルトガルとつながりが強くて。アブランテス市というところと友好都市なんです。そこにターゲットを絞ってもいいんじゃないかなと。九州の一地方都市が異常にポルトガルからの旅行者が多いなんてことになったら面白いし。そこから広がっていけばいいかなと思ってます。
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